IMFは危機に見舞われた国々に対して融資をすることで最もよく知られているかもしれない。しかし、IMF自体の財源の仕組みはどうなっているのか。重要な機能に必要な資金をどのように調達し、運用コストをどのように賄っているのだろうか。
IMFは国際金融における消防士として機能するだけではないということを忘れてはならない。加盟国が経済と金融の安定を維持し、成長・雇用・生活水準を改善するための適切な経済条件と制度を作り出すのを支援するための政策助言と技術支援も提供している。
この任務は、リソースを生み出しそれを配分するための独自のメカニズムによって果たすことができるのだ。1兆ドル近い融資能力を持つ信用組合(各国が組合員)と考えると分かりやすい。
国のための信用組合
信用組合がどのように機能するかを考えてみよう。組合員は預金の利息を稼ぐためにお金を預けるだけでなく、ローンを組む際に、この集めたリソースを活かすことができる。
IMFも同じように機能する。191のIMF加盟国はそれぞれ、総じて世界経済での相対的な地位を基に、「クォータ」が割り当てられる。クォータは、IMFの財務構造の主要な構成要素だ。これは、各加盟国の資金拠出額の上限を決定するとともに、各国がIMFから借り入れられる額を定義する上での指針ともなる。
これは、借入国と債権国の両方に利益をもたらすモデルだ。加盟国は、IMFの融資資金の財源を提供する代わりに、利子付きで流動性のある安全な対IMF債権を得ることになる。重要なのは、この債権は加盟国の外貨準備の一部とみなされるということだ。
他の多くの国際機関と異なり、IMFは、加盟国の年会費や予算充当による補助金に依存していない。
これらはすべて、世界経済にとって重要だ。IMFは、加盟国の資金をひとつにすることにより、国際金融のセーフティネットにおいて中心的な役割を果たしている。これは、輸入品の支払いや対外債務の返済など、国際的な支払い義務を果たすことに苦戦している国を支援する。国際収支の危機に直面した場合、各国はIMFに迅速に支援を求めることができるのだ。
誤解のないように述べると、IMFは、インフラ構築のための融資など、開発援助やプロジェクト融資は提供していない。これは他の機関が提供している。IMFは最後の貸し手として 、ストレス下にある国に一時的な流動性支援を提供する。こうした支援の利点は他に劣らない。IMFの融資は、危機が一般の人々に及ぼす影響を和らげることに役立つ。これらは信頼を回復し、各国の持ち直しを促す経済改革を進める上で不可欠な「ゆとり」を生み出す。
これは、最強の経済国も含め、すべての国々に利益をもたらす。考えてみれば、ある国や地域において不安定性に対処せずにそれを放置すれば、不安定な資本フローや移民圧力の高まりなどを通じて、他の国に容易に波及しかねない。言い換えれば、困っている国を支援することは、すべての国にとって、自国に賢明な選択となる。
融資条件
加盟国がIMFから融資を受ける際、IMFが融資に充てる財源を提供する債権国は公正な報酬を受け取ることになる。つまり、あらゆる 実務上のリスクのない融資に対して、期待される市場ベースの利子を得られる。
債権国一覧にはIMF加盟国のうち、特に対外収支の経済的地位が他国を支えるに足るほど強い国が含まれている。2024年には、約50の債権国が、非譲許的IMF融資の財源に充てるクォータ資金に対して合計約50億ドルの利子を受け取った。
加盟国はまた、共同出資の恩恵を受ける。IMFの最大加盟国である米国を例にとると、融資に利用できる資金1ドルを米国が提供するにつき、IMFは他国から追加で4ドルを集めている。全体として、IMFの融資能力は1兆ドル近くに上る。また、IMFの融資は、他の国際金融機関からの、そして極めて重要な民間部門からの、重要な融資を促進しうる。
借入国にとっては、「信用組合への加盟」がマクロ経済のライフラインとなる。融資額は、各国のクォータの倍数である。そして根本的な経済的課題に対処するため、融資にはIMFプログラムの設計と コンディショナリティが付随する。IMFからの借り入れに支払う金利は低く、融資条件のメリットが見て取れる。この金利は、危機に見舞われた国々が 民間 資本市場で課される水準よりもはるかに低い。
IMFの一般融資(つまり非譲許的な融資)を利用する借入国は、債権国に支払われる金利に小幅なマージンを加えた金利を支払う。さらにIMFは、最も貧しい加盟国向けにさらに安価で譲許的な融資を提供するトラストを管理している。
IMFの融資の強力なセーフガードと強固なバランスシート、多額の準備金により、IMF加盟国の拠出金は守られている。IMFの融資は常に返済されてきた。つまり、IMFが一度も信用損失を被ったことはなく、また、IMFに対する債権を失った国もない。
運営費用
IMFの融資機能の中核にはIMFの特異な財務構造がある。しかし、これが唯一の特徴ではない。IMFはほぼ全世界の国で成り立っており、各国経済の定期的な「健全性調査」(いわゆる4条協議)を実施する権限を加盟国から与えられた唯一の国際機関である。
さらにIMFは、債務問題への対応から資金洗浄との闘い、生産性向上のための改革の設計に至るまで、最先端の研究や政策助言を提供している。また、加盟国と協力して、健全な政策決定を支援し、公的機能の説明責任を提供する税務行政システムや金融枠組みなどの経済制度を構築する。
こうした作業を実施するためには運営費用がかかる。しかし、IMFは、これらの費用を賄うために、年次予算の充当や納税者からのその他の支援に依存していない。
代わりに、融資と投資からの収入によって完全に賄っている。こうした収入源と、横ばいの予算枠組みの下での慎重な経費管理によって、IMFは準備金をさらに積み上げることができる。インフレ調整後の現在のIMF 運営予算は、20年前とほぼ同じ規模だ。
こうしたIMFの財務構造の要素はいずれも極めて重要だ。それらは多くの点でユニークだが、基本的な原則は単純であり、機関の創設時に定められたものだ。
1944年のブレトン・ウッズ会議で演説したヘンリー・モーゲンソウ米財務長官は次のように述べた。「国際通貨・金融協定の詳細な内容は謎めいているように見えるかもしれない。しかし、その核心には、日々の最も基本的な生活手段のような現実が存在する」
この言葉が今日以上に響くことがあるだろうか。IMF加盟国は、自国および全体の経済厚生のために資金をひとつにまとめる。これは、債権国と借入国の両方に利益をもたらす。そして、IMFが世界経済の安定と繁栄を促進することを可能にするのだ。